もし、私たちが、冷蔵庫を買うようにこの家を建てていたら、今ごろは、欠陥住宅だということで、大騒ぎになっていたかもしれない。げれど、1年間暮らして、私たちは、この家の快適さを堪能していた。外は猛暑でも、家の中は涼しい。外は雨でも、家の中は木と砂が湿気を吸うのでカラリとしている。反対に、外が乾いていても、家の中には常に適度な湿りがある。どんなに寒い日でも、家の中は暖かい。クリの木が暴れることで起きることは、欠陥ではない、性質なのだ。
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そして、たぶんこうした現象が現れるのも、あと数年のことだ。頼めば補強してくれる職人がいるのだから、何の心配もないことだ。その後、Tさん、Oさん、社長とは、新居で何度か宴会をした。そのたびに、私は、「クリが動いて、窓ガラスが割れるのよ」「こんなに、木と木の間に隙間が開いちゃって、大丈夫かしら」などと、家の文句を言う。そうすると、材木屋が悪い、大工が悪い、建築家が悪いという話になって、宴会の席が大いに盛り上がる。たぶん、私たちは、生きているかぎり、顔を合わせるとクリの木の悪口を言い、この家の悪口を言い、お互いの悪口を言いながら、お互いの存在を確かめあうのだろう。けれど、私たちがそうやって、お酒を飲みながら文句を言い続けられるのも、たかだが50年だ。300年生き続けるこのクリの家にとっては、「そういえば、昔、そんな人たちが住んでいたな」ということでしかないだろう。